2012年5月31日木曜日

心機一転 (平成24年5月)

新しい年度になりました。
この冬はとにかく雪との闘いでしたね。
ペンギンの散歩も雪を集める苦労もせず、
いつ止めるかの協議もせず
冬期閉園日までできてしまいました。
いいことではあるのですが、
それにしても雪解けが遅いのには閉口します。
記録的に遅いのではないでしょうか。
春の開園準備が雪割り作業で終わってしまうのではないか
という危機感が現実味を持っています。

4月に入ってとても嬉しいことがありました。
ゴマフアザラシのカムイが出産しちゃんと子育てができたのです。
自然保育も7年ぶりで二重の喜びでした。

カムイは平成12年釧路市動物園に
まだ白いこどもで保護され旭山に来ました。
その年はぺんぎん館がオープンする年で、
カムイはペンギンと一緒に飼育する予定でした。
カムイだけ他のアザラシとは一緒にせず、
人の気配のない小さなプールしかない越冬舎で飼育をし、
ぺんぎん館オープンの数日前にぺんぎん館に引っ越しをしました。
人に対する警戒心が強くとても神経質な個体になってしまいました。
飼育係の手をかじってしまったり、
ペンギンを追い回したりと問題が起きました。
すべてをストレスに感じる個体にしてしまったことを反省して、
アザラシ舎に移しました。

カムイは平成19年、21年に出産をしましたが、
最初の子は出産当日に溺死、2回目は育児放棄でした。
母親とはぐれた保護個体であること、ぺんぎん館で無理を強いたこと、
どこかで現在の生活環境を信じることができないのではないか、
そんなことを感じていました。

今回の出産は夜中だったのですが、
翌朝やはり育児をする気配がありませんでした。
母親になれたのは、担当者の粘りでした。
子の元気はあったのですぐに人工保育を決断せず、
母親に任せる努力をしたのです。
実はこの7年間に担当者は4頭の人工保育を成功させてきました。
アザラシの母親替わりをした経験が、どこまで子の体力が持つのか、
どのタイミングで乳を飲もうと鳴くのか、
母親の母性が目覚める可能性があるのか、
分かっていたから粘れたのです。

子をカムイのそばに移動し、
子がオッパイを飲みたくて乳首を探す行動と、
カムイがふと無防備になるタイミングが重なり、
乳を吸われたことで母性が目覚めたのです。
母と子の関係が築けたのです。

今にして思えば良くも悪くも一大ブームになる導火線だった
ぺんぎん館ができ、ひたすら走り続けてきましたが、
自分の中ではとても大切なものを置き忘れた後悔があり、
気がかりだったのがカムイでした。
カムイが母親になれたことで
自分の中でも一つの区切りになった気がしています。

心機一転の新年度です。