2010年12月31日金曜日

動物園の未来 (平成22年12月)

いよいよ年の瀬です。
毎年あっという間の一年だったなと思います。
でも今年はみんながちょっとしたことで一喜一憂する日々が続いています。
そうホッキョクグマです。

現在ルルとサツキが出産の可能性があるために産室に収容しています。
ルルもサツキも体重が増え出産、育児を行う体力はついています。
産室内には、カメラを設置して
24時間態勢で監視できるようにしているのですが、
ほんのちょっとした行動の変化や、
乳房が張ってきたように見える映像が見えたりすると、
ドキドキものです。

過去にもホッキョクグマの出産(子は数日以内に死亡)は
経験していたのですが、
監視システムはなく、ひたすら祈るだけでした。
この映像記録は貴重な財産になります。 

昨年、北海道の4園でホッキョクグマの繁殖のために
大規模な個体の移動を行いました。
画期的なことでした。
その結果順調に繁殖している円山動物園のメスに加え、
新たに釧路の個体と当園の来たサツキに繁殖の可能性が生まれました。 

日本国内を見渡すと、繁殖成功例は数える程しかなく、
現在23園館で45頭が飼育されていますが、
このまま繁殖しないペアーや単独での飼育を漫然と続けると、
日本の動物園でホッキョクグマを見ることが
できなくなってしまう可能性が高いのです。 

外国から買えばいいじゃない?そんな時代ではないのです。
一方で新たなホッキョクグマ舎の建築が続いています。
自分の園のことだけを考えていていればいい時代ではないのです。 
ホッキョクグマは近年の気候変動の中、
近い将来北極の氷が極端に減少する可能性があり、
氷がなくなると命を繋げないホッキョクグマは
絶滅危惧種に指定されました。
エコのマスコットのようにホッキョクグマがもてはやされ、
ブーム的な人気動物になっています。

僕は本質的な問題や視点からそれた、
ある種客寄せパ○ダ的なスター動物のように
扱われることに危惧を覚えるのですが、飼育動物がいなくなれば、
動物園はあらゆる意味で伝える手段を失います。 

飼育下でホッキョクグマの繁殖に成功したからといって、
野生での絶滅が防げるわけではありません。
飼育下で繁殖させることの意味、動物を飼育、展示し続けることの意義を
しっかりと検討することも必要なことです。 

この手紙が届く頃には…すぐに結果を求めるためではなく
将来につながる北海道でのこの取り組みが、
 全国の園館に広がれば素晴らしいことです。
イワンの心配(ゲンちゃん画伯)

2010年11月30日火曜日

「恩返し」第一弾 partⅡ (平成22年11月)

今年は国際的にも生物多様性年という位置付け、
名古屋で生物多様性条約締約国会議COP10が開催されています。
ここでいう生物多様性とは、環境の多様性、種の多様性、

遺伝子の多様性のことをいうのですが、
取っ付きにくくわかりにくいですね。

名古屋ではいきもの会議と呼んでいますが、

これも漠然としていますね。
本来であれば地球規模でヒトも含めてたくさんの生き物が
共に暮らし続ける未来のための道を探ることが
大きな目的なはずなのですが、
残念ながら盛り上がりに欠けています。

大きな原因は、生物を遺伝資源と見て、

国同士の利権の争いの様相を呈してきたからでしょう。
どこまで行っても自分たちが得たものは譲らない、

引き返さないのであれば
未来は厳しいのかも知れません。
結局すべてが経済最優先なんですね。

旭山動物園が取り組んでいる恩返しプロジェクトは

経済の仕組みとは離れた立ち位置から、
共に生きる未来を見ようというのがコンセプトです。
私たちの日常の暮らしが本来そこに暮らす生き物たちの

豊かさを奪い続けていることが、生物多様性を損なう原因です。

ですから消費者が主体となり、ありがとうの気持ちをかたちにして、
そこで暮らす動物のためになる取り組みをしたいと考えたのです。
第一弾のボルネオへの恩返しは、

マレーシア国サバ州にボルネオゾウを中心に
ボルネオオランウータンなどの野生生物の

レスキューセンター設立を目標にしています。

寄附型の自動販売機の売り上げなどを通して

たくさんのお金が集まりました。
成果としてゾウレスキュー用の檻をつくり現地に持っていきました。

現地ではアブラヤシの畑に出るゾウを救出し

ジャングルに戻す活動をしているのですが、
実用に耐えるゾウの檻が確保できない現状にありました。
現地ではこの檻を使いゾウの救出が成功しました。

これを機にプロジェクトを加速していきたいと思います。
この成果はCOP10のシンポジウムの場で発表し、

たくさんの方の関心を集めました。
日常生活も経済といえば経済なのですが、
現地への返し方が経済の仕組みに巻き込まれていないことが、
持続可能な生物多様性の保全に貢献し続けると思います。

保全活動には必ずお金が必要なのですが、
お金を現地で生み出そうとすると観光などが切り口となるのですが、
観光は必ずしもいいことばかりではありませんね。

もうすぐ冬季開園が始まります。
今年はどんな冬になるのでしょう?
稚内で検出された高病原性鳥インフルエンザも心配です。
充実した年の瀬を迎えたいなと願っています。 
ゾウと檻(ゲンちゃん画伯)

2010年10月31日日曜日

「恩返し」第一弾 (平成22年10月)

例年にない残暑も嘘のように終わり、急に気温も下がり秋になりました。
皆さんは体調を崩されたりしていないでしょうか?

僕たちは残暑の厳しい9月2日から10日までボルネオに行っていました。
旭山動物園が取り組む「恩返しプロジェクト~ボルネオへの恩返し~」の
成果第一弾を届けるために。

このプロジェクトの最終目標はマレーシアサバ州に
ボルネオゾウを中心とした野生生物レスキューセンターを

設立し運営することです。
具体化するために寄附型の自動販売機を開発し
市内では園内を始め約60カ所、

道内、本州などでも設置箇所が広がっています。
たくさんの企業の方の協賛に本当に感謝しています。
この自動販売機からまとまった金額の募金が集まりました。

昨年ボルネオでアブラヤシのプランテーションに入り込んだゾウを捕獲し
ジャングルに返す作業に参加しました。
その際に使うゾウの移動用の檻が、

決して頑丈なものとは言えませんでした。
ゾウの捕獲作業に時間がかかり夜になってしまったため、

翌日にジャングルに返したのですが、
檻が壊れゾウにとってもヒトにとっても危険な状態での作業になりました。
現場では、安全で頑丈な檻が必要だ、

しかし予算的な問題や、田舎での材料調達、
溶接技術などの問題があって

現実は非常に厳しい状況なんだと話していました。

成果第一弾は、ゾウレスキュー用の檻にしようと計画をして、

設計をしました。
檻くらい簡単と思われるかも知れませんが、

ただ運ぶための頑丈な檻というわけにはいきません。

まず重量です。現地ではトラックに着いたユニックで作業をするのですが
ユニックで吊れるのは約3トンです。
檻の重量が軽い程、より大きなゾウのレスキューも可能になります。
檻の重量は1トンを目安にしました。
ゾウに破壊されない安全な強度を保つことが課題です。

次にメンテナンスです。
現地では溶接技術などが確保されていない場合が多いので、
檻はすべてボルトでの組み立て式とし、

パーツごとの交換でメンテナンスできることが課題です。

そしてもう一つ一週間程度の飼育が可能な檻にすることです。
治療が必要なゾウを想定しました。
檻越しに治療行為ができるように、

安全と強度を確保し隙間を空けることでした。
地元田島工業さんと協議を重ね檻が完成しました。

サバ州の野生生物局直轄のロカウィ動物園で檻の贈呈式を行い、
自分たちは立ち会えなかったのですが、

この檻でのゾウのレスキューが成功しました。
現在ボルネオで使用できる唯一の檻です。
サバ州では大きな話題となり

新聞は各紙一面トップ記事でした。
動物園にできること、動物園だからできること、

これからも具体化し続けていきたいと思います。
ゾウと檻(ゲンちゃん画伯)

2010年9月30日木曜日

共存できる未来へ (平成22年9月)

お盆過ぎだというのに残暑というかいつまで夏が続くのか?
といった状態です。
やはり気候変動を強く意識させる夏でした。
秋に向かってうれしい忙しさが増えてきました。

地元旭川の永山新川でハクチョウなど水鳥への餌付けに関すること、
日本を代表する動物園の立場から取り組んでいる
ボルネオへの恩返しプロジェクトに関すること、
具体的なかたちとして成果が実を結び始めます。

どちらもこれから私たちがどのように地球上で暮らしていくのかを考え
行動するきっかけになってくれることを期待しています。

もう一つ、北海道の未来を考える時、
エゾシカの個体数増加の問題は最重要課題です。
北海道庁も本腰を入れ始めましたが、
エゾシカと自然環境とヒトとの共存のツールとして
現在は鉄砲と柵しかありません。

第3のツールとしてイヌの可能性を探る活動に
旭山動物園も深く関わりを持っています。
イヌの能力とエゾシカの関係を探る第2回目の実験を秋にする予定です。
現在実用の可能性を探っているのはボーダーコリーです。
素晴らしい能力を持つイヌです。

旭山動物園のこども牧場にもいるのでご存じの方も多いかも知れません。
ディスクを投げると空中でキャッチするのですが、
ボーダーコリーは先回りをしてキャッチしようとします。
牧羊犬としての血です。
イヌの犬種は見た目のためではなく、
ヒトが期待する役割によって作り出されたことを実感します。

みなさんんもイヌを飼っていたら
自分のイヌがどのような目的で作り出されたのかを
調べてみたらどうでしょうか?
もしかしたら、どうしてこんなことができないの?
どうしてこんなことをするの?
とイライラしていたことがそうだったんだ!
と理解してあげられるかも知れません。

旭川市は動物愛護センターの設立に向けて準備を進めています。
ヒトとペット(伴侶動物)との理想の関係を目指すことになります。
この中で飼育を放棄され安楽殺ぜざるを得ない
飼い犬の問題は避けてとおれません。
この問題の原点は大多数が
飼い主側のイヌに対する理解不足が原因です。
イヌの側は常に飼い主を理解しようとし、関係を築こうとしています。

ヒト、家畜、ペット、野生動物
すべての命が共存できる未来にしたいと強く思います。
こども牧場にいるゴールデンレトリーバー「チャンティ」(ゲンちゃん画伯)

2010年8月30日月曜日

世界自然遺産知床 (平成22年8月)

ゲンちゃん日記の更新が大変遅くなり申し訳ありません。

7月17日知床が世界自然遺産登録5周年を迎えました。
ウトロでの記念式典で講演をする機会をいただき、
知床に行って来ました。

思い返せばゴマフアザラシの施設を建築したのが6年前、
5年前は200万人をこえる想像もしなかった来園者が訪れた年でした。
北海道を代表する冬の使者ゴマフアザラシ。
当時、他の園館の人に次はゴマフアザラシの施設を考えているんだ、
と言うとなんでアザラシ?と不思議な顔をされたのを思い出します。
あざらし館は日本の動物をパンダやコアラ、
ラッコと同じ主役として扱った日本で最初の施設でした。

知床も驚く程たくさんの観光客が押し寄せるようになり、
現地の人たちにはとまどいの方が大きかったことと思います。
収容能力を超える観光客が訪れる中で
何を伝えられているんだろうという不安、
観光客数が落ちると、地域経済の視点からの議論…
知床と旭山には驚く程の共通点があります。

知床に滞在してあえて観光客と同じ目線で観光船に乗ったり、
試験的に行っている知床五湖を
ガイド付きで回るツアーに参加するなどしました。

知床岬までの観光船からは、海岸縁に親子のヒグマが2組、
単独行動のヒグマを2頭見ました。
海岸に打ち上げられた魚や海藻などを探していました。
ヒグマのそばの草地にはエゾシカの群れ、
海岸の流木の上には巣立ちをした若鳥を連れたオジロワシ、
海面にはトドやイルカの死体が漂流し、
崖にはオオセグトカモメなどの繁殖地がありました。

夜には海に近い道路沿いで海の魚を狙ってシマフクロウが現れました。
海面にはサケ漁のための無数のオレンジ色のウキが浮いていました。
海岸を接点として陸の豊かさと海の豊かさが一体となり、
そこに人の生活もとけ込んで見えました。
やはり知床は圧倒的な包容力のある自然が残る大地でした。

その一方で、ヒトと動物との距離の異常な近さ、
異様な振る舞い、異常な景色にも圧倒されました。
ガイドについてもらった五湖ツアーでは、20メートルもないくらいの距離に
ヒグマの親子が現れました。
エゾシカは触れる距離まで近づくことができます。
道路沿いのシカは車が通りすぎても、
耳すら動かさずに無警戒に餌を食べ続けています。
高さ50センチくらいに刈り込まれたようなクマイザサの草原、
管理された公園のようにヤブこぎをしなくても川まで行ける河川敷、
ハンゴウンソウ、ワラビ、外来種のアメリカオニアザミ等だけが
不気味に繁茂していました。
数メートル程度の若木がないスカスカの森が
いっそう不気味さを引き立てていました。
すべてエゾシカの食害の結果です。

世界自然遺産知床はどのような未来のスケッチを描き目指すのか?
伝えるべきは表面上の豊かな自然ではないのだと思いました。
見てきた知床の風景(ゲンちゃん画伯)

2010年7月30日金曜日

うれしいこと (平成22年7月)

さて、うれしいことが続いています。
ぺんぎん館では5月31日にキングペンギンのヒナが、
6月5日にはイワトビペンギンのヒナが孵化し順調に育っています。
ととりの村ではマガモ、ハクガンなどガンカモ類の雛たちが相次いで孵化し
水面はたくさんヒナたちが泳ぎ回りとてもにぎやかです。

昨年、新しくなったテナガザル舎で、6月2日にシロテテナガザルが出産しました。
旭山のテナガザルは昨年夏までは89年生まれの母(シラコ)と
02年生まれ(サスケ)と04年生まれ(コタロー)のオスの子2頭でした。
雄親は05年に死亡していたからです。
昨年の10月に一人前に育ったサスケを縁あって他の動物園のオス(テルテル)と
交換することができました。
それぞれが新たなペアーを形成するための交換でした。

テルテルは01年生まれでシラコとはまさに親子程年が離れていること、
テナガザルは一夫一婦制の家族単位で生活をすることから、
もうすぐ一人前になるコタローと闘争などが起きないか心配はありました。
テルテルは気性が穏やかで、心配していたことがバカらしく思える程
シラコ、コタローとの同居もトラブルなくおこなえました。

テナガザルの妊娠期間は7ヶ月程度なので、

昨年11月の早い時期に交尾をしたことになります。
旭山に来て一ヶ月も経たないということになります。
なんとまぁ早いこと…

テナガザルの交尾はお互いが両腕でぶら下がった状態で、
振り子のようにブラブラと揺れながら、

腰が触れ合ったかなというくらい短時間におこなわれます。
交尾の確認は至難の業なので、明確な交尾は確認していませんでした。 
 
今年の5月頃からシラコの腹部が大きくなってきて、もしやとの思いはありました。
生まれた子は、顔は肌色で体毛が薄く、まるで手足の長いヒトの子のようです。
シラコは6年ぶりの出産でしたが

5頭の子を立派に育て上げただけあって落ち着いたものでした。
コタローにとっては始めての弟妹で、興味津々です。

新しい施設に新たな命の誕生はとても嬉しいことでした。
さらに6月14日キョンも出産しました。
親があの小ささなので、子はまさに手乗りキョンになりそうな程小さい体でした。
キョンの展示はしばらく先になりそうです
(この手紙の頃にはもしかしたらお披露目しているかも知れませんが…)。


※キョンは室内放飼場で展示を始めています。

みなさんも新たな命の成長を自分の目で優しく見守って下さいね。
テナガザルの親子(ゲンちゃん画伯)

2010年6月30日水曜日

旭山の近況報告 (平成22年6月)

天候不順が続き桜の開花も遅れましたね。
そして今年は宮崎での口蹄疫の発生。
北海道でも防疫対策がとられ始め、

農家の方は不安な日々を過ごされていると思います。
宮崎牛ブランドの危機以前に、日本の食の保証の観点から
危機管理をしなければならないのではないかと思います。
国の対応が毅然としていないと感じるのは僕だけでしょうか。

当園は、北海道や近郊の酪農家の対策と歩調を合わせ、
来園者の踏み込み消毒、口蹄疫に感受性のある動物に
来園者が触ることができないようにする対策を実施しました。
万が一動物園での発生があると

あらゆる分野の大きな悪影響が及んでしまいます。
この手紙が届く頃には事態が沈静化していることを祈るばかりです。

夏期開園からあっという間の一ヶ月でしたが、
もしかしたらと密かに期待していたオオカミの出産はありませんでしたね。
来年こそ期待したいです。
今は別飼育としているケンの姉妹メリーは新たな飼育先が見つかり、
引っ越しの日取りなど現在調整中です。
新天地ではすこし年上のオスとペアーになる予定です。
メリーはとても気性が強いのでちょっと心配ですが、
とてもオオカミらしい個体なので、

どこに出しても恥ずかしくない自信はあります。

無事にオープンした「もうきん舎」。
神経質だったオジロワシも急速に来園者を見慣れて
来園者の前でも悠然と構えるようになりました。
さらに池に放したニジマスを捕まえ食べるようにもなりました。
着実に野生が蘇ってきています。
傷病鳥として保護され

野生復帰が不可能と判断し飼育を継続してきた個体たちです。
こんなにも生き生きとした表情を見せるようになるのかと感無量です。

円山から来たホッキョクグマのサツキはイワンと交尾をしました。
発情が一度も確認されていなかったサツキに発情が来たのです。
イワンの執着心が弱かったのが気がかりですが交尾は確認できました。
少なくとも出産の可能性は生まれました。
ホッキョクグマの場合、出産後に育児をするかどうかが勝負になります。
出産、育児をするための環境をしっかりと整備しなければいけません。 

育児をさせるのではなく育児をしたくなる環境を考えなければいけません。
今年はルルとサツキのダブル出産に備えなければいけないのですが、
まさかこんなことになるとはうれしくて夢のある誤算でした。
ただイワンはまだメスを妊娠させた実績はないので

過度の期待は抱かないようにしつつ…でも期待する微妙な気持ちです。

※この日記は5月下旬に書いたものです。
口蹄疫に関しては現在も防疫対策を継続しています。
ホッキョクグマの親子(ゲンちゃん画伯)

2010年5月30日日曜日

夏期開園日 (平成22年5月)

更新が一ヶ月遅れになってしまいました…すみません…。
コレは4月に書いたものです。

今年は4月に入っても暖かい日が続かず、残雪も多い年です。
やはり温暖化と言うよりは気候変動という言葉のほうが
より的確な気がします。
しかも小春日和かと思えば夜には雪が舞うみたいな、
乱暴な天気の日が多くなっています。
夏期開園の29日は小春日和になればいいな、なんて祈りつつ
夏期開園準備におわれる日々です。

それぞれが担当動物舎のリニューアルに工夫を凝らします。
それは飼育動物がよりその動物らしく過ごすための環境づくりであり、
そのことはイコール来園者にも
より感動を持って動物を見てもらうための工夫でもあります。
どこが変わったのかはご自分の目で確かめてくださいね。
我々の試行錯誤の工夫を楽しんでいただけたら、
それは同時に僕たちと共により深く動物を知る道のりにつながるはずです。

気候変動と言いましたが、今年はキングペンギンが4月に産卵しました。
例年より一ヶ月近く早い産卵です。
キングペンギンは繁殖期の前に一年に一度の換羽をするのですが、
その換羽も今年は早く訪れました。
その影響でペンギンの散歩も3月から一日一回にしていました。
卵は有精卵で孵化を期待しているのですが、
なぜ今年繁殖期が早く訪れたのかは、
これといった原因は見あたらず解明していません。

キョンとテナガザルの共生展示にも取り組んでいます。
来園したキョンはヒトに対してはとても臆病で神経質な反応をするために、
テナガザルとの同居もハードルが高いなと慎重に準備をしてきました。
室内展示場で同居を開始したのですが、ヒトに対する反応とはまったく異なり、
テナガザルに対しては怯えたり逃げたりといった反応を一切しませんでした。

テナガザルの一頭がキョンに興味を持ち恐る恐る触りだし、
それが蹴る、叩く、掴むとエスカレートしていったのですが、
キョンはいたって冷静で受け手流すような反応でした。
相手の本質的な能力や、
自分に対しての関心の質等を瞬間的に読んでいるようでした。
凄いもんだなと感心してしまいました。
仲よくではない共生の原点を見たような気がしました。
担当者の努力もあり順調に開園を迎えられそうなめどが立ちました。

今年は旭川近郊の方が足を運びたくなるように
たくさんの情報を発信していきたいと考えています。
キョン(ゲンちゃん画伯)

2010年4月30日金曜日

共に暮らす未来 (平成22年4月)

今は春の閉園期間中。
毎年何でこんなに手直しするところがあるんだろう?
と思うくらい舗装や器械類の修理などが目白押しです。

今年はホッと一休みができるようにベンチの大増設をします。
トイレ不足解消のためにさる山前に水洗トイレも作りました。
日陰の増設にも取り組みます。
どう変わったのか、今年こそは「混んでるからね」
といわずに皆さん確認しに来て下さい。
そしてもっとこうした方がいいよと意見を下さい。

今年は市民や道北圏の方々に足を運んでもらえるように
頑張っていきたいと思います。
やはり見続けることから、命の大切さを実感でき、
さまざまな生き物と共存する価値観は生まれてくるのだと思うからです。

今年度の始まりは、もうきん舎のオープンから始まります。
じつはこれシマフクロウ舎として整備した施設です。
シマフクロウは現在動物園としては
釧路市動物園のみで飼育し繁殖に取り組んでいます。
一カ所での飼育は感染症などが発生した場合に
全滅の危険があるために、将来飼育地を分散していく方向です。
もちろんいつになるかは分かりません。

しかしその時になって受け入れる施設がなければ
受け入れることもできません。
そのための準備です。
巣箱も釧路スタンダードで準備してあります。
そこにオジロワシなのです。
少し違いはあるのですが北海道の豊かさの頂点にある動物であること、
魚食性が強いことで一致します。 

あざらし館から始まり、絶滅させたオオカミの森、
有害獣と呼ばれるエゾシカの森と
北海道の生き物たちの施設の整備をおこなってきました。
オジロワシも特に冬期間は旭川でもなじみの深い鳥類ですね。
駆除し放置されたエゾシカを食べ
駆除に使った鉛弾も一緒に食べてしまうことで
鉛中毒が大きな問題になったことは
多くの方が知っているのではないでしょうか。

新年度は、さらにタンチョウ舎を新設し、
現在のは虫類舎を北海道産の両生類・は虫類舎に改修します。
地味だと思われるかも知れませんが、
共に生きている生き物の生き方を知らないと
共に暮らす未来を考えることはできませんから…。

皆さん30年後の北海道をテーマに絵を頭の中で描いてみてください。
どんな動物たちがいますか?
僕は少なくとも現存する動物たちにはすべていて欲しいと思います。
そんな未来を選択する北海道でありたいとの願いをこめました。
オジロワシ(ゲンちゃん画伯)

2010年3月31日水曜日

”いのち”を繋ぐ (平成22年3月)

毎度のことながら、あっという間に2月です。

オオカミに発情が来て2頭の仲は急接近かと思えば変によそよそしかったり、
駆け引きが続いています。
お互いが認め合って始めてペアの誕生なのですが、やきもきします。

レッサーパンダも恋の季節を迎え、交尾も確認できました。
どちらも年一回の恋の季節です。
出産を期待しながら春を待つのはいいものですね。

ホッキョクグマのサツキが円山動物園からやってきました。
サツキはおびひろ動物園で長い期間、1頭で飼育されていたのですが、
繁殖を期待し円山動物園に移動しました。
デナリとの繁殖を期待したのです。

ところが一昨年、昨年と同居を試みたのですが、
サツキが怯えてデナリとの同居は成功しませんでした。
デナリもサツキに対しての関心は高くなかったようです。

ホッキョクグマは雌に発情が来ると、強引に交尾をします。
恋の駆け引きなんてないといってもいいでしょう。
北極の大氷原で雄と雌が出会う機会は多くはなく、
生きることに精一杯な中では駆け引きなどしている余裕はないのでしょう。
寒さはあらゆることを先鋭化します。
サツキは雌としての発情がはっきりとしない個体なのかも知れません。

サツキは18才です。
繁殖経験がないことを考慮すると
繁殖の可能性という点ではあと数年でしょうか。
イワンとサツキの繁殖に成功すれば新たな血統が生まれます。

現在順調に繁殖している円山のデナリとララですが、
ララと旭山のルルは姉妹です。
釧路のクルミがデナリとの子を産んでも、イワンとルルに子ができても、
北海道内ではすべて血縁関係になり、
将来につながるペアーをつくることはできません。
サツキに可能性がある限りその可能性に賭けようと
今回の移動が決まりました。

サツキはとても順応性の高い個体で
旭山の環境にもすんなりと馴染みました。
一般的には4月に発情が来る可能性が高いので、
イワンとの同居に備え準備を整えています。

命を繋ぐことは自然界でも飼育下でも何よりも大切なことなのです。
ホッキョクグマの血縁関係(ゲンちゃん画伯)

2010年2月28日日曜日

ボルネオへの恩返し (平成22年2月)

年が明けたと思ったら、はや雪祭りが迫ってきました。
冬期開園期間の正念場です。

今年は新生旭山動物園の活動が本格化します。
地元の野生動物との関わり方、
北海道のエゾシカを窓口にした自然の問題、
我々の生活がもたらす地球規模での問題、
すべて人との関わりの中で翻弄され続けてきた
生き物たちとの共存を目指す取り組みです。

旭山動物園は地球上の動物代表として、
ヒトに対してメッセージを発信し続け、
人間社会代表として動物たちと共存するための未来を探る
具体的な取り組みに着手します。

日本代表として、ボルネオへの恩返しプロジェクトが始動します。
具体的にはマレーシアサバ州と
「ボルネオ生物多様性保全に関する覚書」を交わしました。
「何じゃそれは!?」と思われるかもしれません。
要は未来に向かって、
たくさんの生き物たちと共存するためにできることをやろう!ということです。

なぜボルネオ?実は日常生活との関わりで見ると、
身近にある裏山のことよりも、
ボルネオでの自然環境破壊の方がより身近で起きている問題なのです。
そこは旭山で飼育している
ボルネオオランウータンのリアン、ジャック、モリトの故郷です。

「パーム油」聞いたことありますか?
CO2削減、環境に優しいを売りに洗濯用の洗剤に、
ポテトチップスやチョコレートなどのお菓子類に、
業務用の揚げ物油に、冷凍食品に、即席麺に…
さらには化粧品や塗料にまで数え上げたらきりがありません。
パーム油はアブラヤシから採れるのですが
日本はそのほとんどをマレーシアから輸入しています。
パーム油は世界的にも需要が鰻登りです。
現地では熱帯雨林が伐採され
アブラヤシのプランテーションが拡大しています。

さらに熱帯雨林から生産される
コンパネなどの木材が大量に輸入されています。
旭山でも手作り看板などのためにコンパネを大量に使っています。
春に購入したコンパネをふと見るとmade in malaysiaの文字が…

日本は生活の基盤を海外に頼っています。
本来オランウータンやボルネオゾウなどの野生動物のための豊かさを
パーム油という形で私たちが奪っているのです。

旭山動物園は、恩恵を受けているだけではなく
恩返しを!という発想から、
恩返しプロジェクトという形で、
サバ州に野生生物レスキューセンターの建築を目指します。
すでに寄附型の自動販売機も完成し全国に広がりを見せています。

旭山の夢が旭川市民の夢になればと願っています。

関連リンク:ボルネオへの恩返し
ボルネオ島の現状(ゲンちゃん画伯)

2010年1月31日日曜日

今年もよろしくお願いします!(平成22年1月)

年も変わり心機一転ですね。
今年はいい年にしようと決意しています。
今シーズンは近年になくちゃんと冬も訪れました(今のところは…)。
都会で暮らすと暖冬で雪が少なく雪解けも早いと、
何かと楽なのでうれしかったりするのですが、
しっかりとした寒さと雪があって
生活が成り立つ生き物がたくさんいます。

旭山動物園のペンギンの散歩が始まるのを
たくさんの人がまっていてくれます。
冬の魅力をもっともっと発信して、早く雪が降らないかな!
雪が降ることが待ち遠しくなる、そんな動物園になりたいと思います。

雪より白いと思っていたのに雪の方が白かったホッキョクギツネ、
でも雪の中で尻尾をマフラーにして大福のように丸くなり、
時折目を開けてこちらを見るしぐさが何とも愛らしく見えます。
こいつらマイナス60度になっても平気なのかと思うと
やっぱり凄いヤツだなと改めて見直してしまいます。

ホッキョクギツネ舎はポーラビューと名付けたビューポイントがあります。
手前にホッキョクギツネ、背景にホッキョクグマ、
それぞれが「ある場所」にいてくれないと成り立たないのですが、
ぜひ見に来てください。
もし幸運なことにポーラビューを写真に納めることができたなら、
旭山動物園フォトコンテストに応募してください。
優勝間違いなし!少なくとも僕は推薦してしまうでしょう。

シンリンオオカミのケンとマースはここに来てとてもラブラブです。
秋まではどこかよそよそしかったケンがマースを認め始めたようです。
じゃれたりアイコンタクトをとったり、
精神的な距離がずいぶん縮まってきました。
ケンがマースを伴侶として認めたかは予断を許しませんが、
明るい兆候です。
オオカミの発情期は厳冬の1月から2月にかけての年1回です。
楽しみです。
体が一回り大きくなったように見える冬毛に身を包んだオオカミの姿は
いつ見ても惚れ惚れとします。

寒さが順調に訪れたら、あざらし館にも流氷が出現します。
流氷があって種を繋ぐゴマフアザラシ。
オホーツク海にもしっかりと流氷が訪れて欲しいものです。

今年は寅年。
一頭になってしまったアムールトラの「のん」。
いっちゃんとの間に子をもうけることはできませんでしたが、
雪の中を転げ回っています。
虎の子をいつの日か旭山で!そんな思いがこみ上げてきます。

やれインフルエンザだ!不況だ!負けてなんかいられません。
未来は自分の力で切り開くまでです。
アムールトラの「のん」(ゲンちゃん画伯)