2008年10月30日木曜日

「エゾシカの森」序章!(平成20年10月)

9月も中旬に入り,朝晩は秋らしくなってきました。
エゾシカの角も生長し袋角が破け立派な角になり始めました。
エゾシカはこれからが恋の季節です。
もう少しすると,エゾシカは灰色がかった茶色の冬毛に衣替えです。
葉が落ちた林のモノトーンにとけ込むためです。
昔はオオカミから身を隠すためだったのでしょうが…
エゾユキウサギやホッキョクギツネも真っ白に衣替えです。
そしてオオカミも毛足の長い冬毛に換わります。
小高い雪山に登り,白い息を吐きながら遠吠えをする姿を想像するだけで
早く冬が来ないかと待ち遠しくなります。
ほんの100年少し前まで旭山でも
野生のエゾオオカミが遠吠えをしていたことでしょう。

さて,6月にオープンしたオオカミの森,
実はエゾシカの森が隣にできて始めて完成です。
そのエゾシカの森の設計も終わり年度内の完成を目指し着工します。
みなさん実はエゾシカも絶滅したと考えられていた時期があるのをご存じですか?
エゾオオカミを奨励金を出して駆除し,オオカミによる家畜の被害がほぼなくなり
奨励金制度をやめた1888年の翌年,エゾシカが禁猟になりました。
オオカミの駆除と平行して,
エゾシカの毛皮や角を商品として大量に捕殺していました。
その数は年間10万頭を下らなかったと言われています。
このままではエゾシカがいなくなると心配し禁猟措置をとったのです。
オオカミにとっては主食のエゾシカはいなくなる,家畜を襲うと殺される,
飢えと恐怖の中で消えていったのです。

ちなみにエゾオオカミに人が襲われた事例は一件もありませんでした。
その後一度エゾシカ猟が解禁になるのですが,
1920(大正9)年再び禁猟となります。
しかしこの時すでにエゾシカは絶滅したと考えられていました。
しばらく時は流れて1942(昭和17)年日高と置戸の山奥で
エゾシカはひっそりと息をつないでいました。

その後着実に数を増やし,1985(昭和60)年頃にエゾシカの数が
北海道の森が養える数を超え農業,林業の被害が顕在化してきました。
そして今農業被害だけではなく,本来のすみかである森すらも破壊してしまう
モンスターになってしまいました。

豊かな大地北海道は,私たちだけのものなのでしょうか?
 
「エゾシカの森」では畑を作り
市民と一緒に種植から収穫までやりたいと考えています。
きっとエゾシカに食べられたり荒らされたりするでしょう。
でも植えたら収穫したくなるはずです。
その過程の中で,僕たちも自然の中でエゾシカと共に生活しているんだ,
僕たちの生活圏と自然に境界線なんてないんだ,
ということに気づいて欲しいと思います。

絶滅に追いやったオオカミ,増えすぎたエゾシカとヒトの生活,
これがおおきなコンセプトになります。
水を飲むエゾシカ(ゲンちゃん画伯)