2007年2月26日月曜日

ありのままが一番!(平成19年2月)

相変わらず冷え込みもなく雪も少なく,このまま冬が終わってはまずいだろう,
と言う漠然とした不安を抱きつつも,僕たちにとって,
南の方から来られる観光客にとっても都合のいい冬が続いています。
ちんぱんじー館もはじめての冬,施設的にも大きなトラブルはなく順調です。
 
ちんぱんじー館で来園者の反応を見ていて,意外だったことがあります。
「チンパンジーってこんなに大きいの?!」
結構頻繁に耳にします。
「テレビのは幼稚園児くらいの大きさだったよ」
「信じられな~い,でかすぎ,怖~い」…
なるほどテレビかと納得しました。
洋服を着てイヌと一緒にお買い物をするチンパンジーや、
ニュースキャスターの物まねをしている個体もいるようですね。

いずれの個体も5~6才くらいの,とても多感でやんちゃな時期です。
旭山にもちょうどあれくらいの大きさの個体が2頭います。
何でも大人(チンパンジーの)のまねをしてみたり,
大人をからかっては怒られたり,
大人がしないようなことを平気でしてみたり…
今一番の関心事は群れの中で昨年生まれた赤ちゃんを
母親の承諾を得て抱っこをしたりして遊びながら子守をすることみたいです。
赤ちゃんの扱いがちょっと過激で見ていて心配な面はあるのですがね。
でも,もうお分かりですよね。
この年頃は,大人の仲間入りをするためのとても大事な時期なのです。
立派なチンパンジーとして生きていくための
一番大切な学習の時期と言ってもいいくらいです。
 
チンパンジーの親が育児を放棄したために、
飼育係が代わりに育てる人工保育はありますが、
将来チンパンジーとして過ごせるような取り組みをします。
テレビ番組に出演している個体のように,ヒトのように振る舞うことを教え込まれ,
服を着せられて過ごすのは希なことです。

特定の人と1対1の絆の上で調教され,
すべてが擬人化された演出の組み合わせで
ストーリーが作られています。
彼らはもう数年もすると自己主張が強くなり,
肉体的にヒトよりも強くなります。
制御ができなくなります。
演出が成り立たなくなります。
見た目も「かわいらしく」なくなります。
そうなると「引退」です。
引退した後の彼らはどうなるのでしょう?
ヒトとも一緒に過ごせない,
チンパンジーとして生きる学習もしていないのです。

都合のいいかわいい時期だけを見ていることが,
あるいは見せられていることが
あまりにも多いのではないでしょうか。
「チンパンジーってこんなに大きいの!」
等身大の,ありのままの彼らを見てもらうことが動物園の使命です。

チンパンジーのナックル歩行(ゲンちゃん画伯)