2007年12月26日水曜日

みんなが主役!今度はレッサーパンダ!(平成19年12月)

さて,今年は例年になく早いドカ雪で,てんてこ舞いでしたね。
中途半端に気温が高いので,ツルツル路面になりやすく,
おかげで滑り止めの砂利の消費も想像を絶する量になっています。
今年度もやりくりが大変です。

年末に急遽決まった工事を着工しています。
設計・打ち合わせがのべ3日間で,
クリスマス前のオープンを目指しています。
動物にとっても,皆さんにとっても,
ささやかなクリスマスプレゼントになればいいのですが…。

工事内容は,レッサーパンダの「吊り橋」です。
レッサーパンダは樹上を好みます。
どうにかならないかな?と前から気になっていました。
レッサーパンダ舎の向かい側,
お客さんをはさむ場所に大きな木があります。
そこに行けるようにできないか?早速,具体化しました。
まず,既存のオリを撤去して,
檻越しではなく彼らを見ることができるようにします。
これも気になっていたことで,
この際なので思い切ってやってみました。
レッサーパンダは跳躍力がないので,
幅2メートルの堀で脱出防止をします。
かなり間近でレッサーパンダとご対面ができるはずです。

スッキリと天井が開いたので,空に向かって偽木を立て,
その偽木と大きな木に吊り橋を架けます。
少し危なっかしいのですが,冬も元気な彼らなので,
好奇心で吊り橋を渡って遊んでくれるでしょう。

夏になると木陰で昼寝をする姿が見られるでしょう。
どこにいるのか探すのに苦労するかも知れません。
レッサーパンダは「腹黒い」のですが,
逆光では見事な保護色です。
ちなみに,もう一カ所見所があるのですが,
それはできてからのお楽しみにしましょう。
なんか工事ばっかりしてるねって,声が聞こえてきそうですが,
もうしばらくお待ち下さい。

今年は,シーズン初めから「トボガン広場」を作ります。
ペンギンの散歩も始まっているでしょう。
そして来年の夏前にオープンするオオカミの森の着工です。
来年も超ハードな年になりそうですね。
まだまだやることはたくさんありますから…
レッサーパンダ(ゲンちゃん画伯)

2007年11月26日月曜日

秋の終わりに (平成19年11月)

夏期開園も終わりました。
今年は新施設もなかったので,
今年の来園者数がどのように推移するのかが,
現状が単にブームなのか,
ある程度の実力を蓄えた結果なのかを占えるのかな,
と考えていました。

結果はチンパンジーの森がオープンした昨年よりも
若干ですが増加しました。
ただし,喜んでもいられないこともあります。
団体ではなく,
一般の来園者や無料つまり子供の来園者数は減っているのです。
さらに,開園40周年7月1日の市民無料開放,
夏期開園終了翌日の市民感謝デー10月22日の来園者数は
想定をはるかに下回りました。
市民離れ,もしかしたら道民離れが加速しているようです。

本来,動物園は観光施設ではないと思っています。
動物たちの誕生や成長,老いや死,個体同士の関わりといった「営み」を
見続けることがとても大切なことだと思い,
そのように見て欲しいと考えてきました。
この視点が今までの動物園には欠けていたから,
珍しい動物に価値があるような見方になってしまったのだと思っています。

でも,営みを見続けるのはふと行きたい時に
足を運べる地元の人たちができることです。
その意味で動物園は地元にしっかりと根付いていなければいけません。
願いとは全く逆の現象が進行しているように思います。
この手紙を読んでいる市民のはたしてどれくらいの人が
動物園に足を運んでいただけたのでしょうか?

今は閉園期間中で,例年になく,たくさんの改修工事をしています。
動物舎関係では,ぺんぎん館の室内展示場の大改造,
イワトビペンギン,キングペンギン,
ジェンツーペンギンの繁殖エリアを充実させます。

彼らは真夏に繁殖するのですが,旭川の夏は少々暑すぎです。
冷房の効いた室内でペンギンも飼育係も安心して子育てができ,
見守ることができるようにします。
特に,体の小さいイワトビペンギンが他種のペンギン,
特にフンボルトペンギンに邪魔されずに
巣を構えられるようにと苦心しています。

「イワトビペンギンは登れるけど,フンボルトペンギンは登れない」が
キーワードになります。
はたして目的が達せられるでしょうか?

その他にも小動物舎,特にアライグマの放飼場に
アライ(洗い)場を新設します。
アライグマが落ち着ける空間になるでしょうか?
それと「こども牧場」の化粧直し。
気づけば10年も経ったのですね。
きれいに直してやりたいと思います。

11月・12月は「行列」はほとんどありません。
皆さん来て下さい!!!

2007年10月26日金曜日

共存と調和(平成19年10月)

さすがに北海道は,9月に入り,秋らしく過ごしやすくなりました。
オランウータンの長男,イワトビペンギン,
キングペンギンのヒナも順調に生長しています。
この号が届く頃には,レッサーパンダ,
アライグマの仔もお披露目されているでしょう。
そうそう,ブラッザグェノン,オマキトカゲもお忘れなく。
冬になる前にぜひ会いに来て下さいね。

8月に九州に行ってきました。
数カ所の動物園,水族館を見てきましたが,
高崎山のニホンザルも見てきました。
僕にとっては想像していたものとは違う強いインパクトがありました。
高崎山のニホンザル,今までの僕のイメージは
「日本サル学発祥の地」「でも,所詮餌付けをした不自然なサル」
「所詮,客寄せの観光地」でした。

書きたいことがありすぎて悩むのですが…まず,サルたちのふるまいです。
僕が訪れた時おそらく数百人の観光客がいたのですが,
サルたちはヒトの存在を認めながらも無関心なのです。
目と鼻の先で子ザルたちが戯れ,足の間をすり抜けていきます。
かといって触ることを許すわけではありません。
お互いが,特に客の側が彼らの生活に干渉しないことから作られた
感動的な関係でした。

その関係を作り出すもっとも基本的なことは
「食べ物を与えないこと」
これが高崎山では信じられないくらい自主的に守られているのです。
その場の雰囲気がそうさせるとしか言いようがありません。
「ポケットやバックの中に不用意に手を入れたり,
食べ物を食べる行為はしないで下さい,
特に女性や子供は注意して下さい」。
このような注意書きがあるのと,
解説員の方がたまに注意を喚起するくらいです。
「昔,お客さんがエサを与えた名残で,バックの中に手を入れたのを見て,
サルが中身を奪ったり,威嚇をして奪おうとしたりすることがあります」。
そう言われると「もう,そんなことをしてはいけないね」と
みんながそう思う空間でした。
サルの生活の場にヒトがお邪魔をして彼らの生活を見せてもらっている,
そんな心地よい緊張感,
「お呼ばれをした家に,お邪魔をしている時」とでも言いましょうか…。

動物園で昔,こんなことがありました。
野生のエゾリスが園内で繁殖して,仔リスが園内を走っていました。
虫取り網を持った子供がリスを追い回し,
大人もあっちだ,こっちだと大騒ぎでした。
「どうして…」僕は唖然としました。

「動物園」は自分たちが見に行く場所,自分たちの都合で見る場所,
そんなイメージが強いのでしょう。
動物園は動物と人が「空間を共有する場」でありたいと強く思いました。

※残念ながら,アライグマの仔は市民広報10月号の発行を待つことなく
9月24日死亡しました。
リスを追うこども(ゲンちゃん画伯)

2007年9月26日水曜日

へその緒(平成19年9月)

お盆が過ぎたというのに蒸し暑い日が続きます。
日本やヨーロッパでの猛暑,
北極の氷が予測をはるかに上回るペースで溶けている等々,
将来が不安になるイヤなニュースが続いています。
それにしても氷が溶けた場合の領海権や
海底資源の権利の問題が取りざたされていて,
ヒトという生き物の底なしの貪欲さを見たような気がします。
ホッキョクグマを守ること=温暖化のペースを遅らせる努力よりも
「欲」が勝るような予感がするのは僕だけでしょうか。

そういえば,7月30日12時過ぎオランウータンのリアンが長男を出産しました。
そろそろかなと予測していたのですが,
室内展示場でお客さんの見ている前での出産でした。
「出産」の一報が無線で流れ,飼育係が集まりました。
ただならぬ雰囲気を察したリアンが落ち着きをなくしたので
その日はすぐに寝室に収容しました。
僕たちが駆けつけたのには理由があります。
リアンは長女のモモを出産した時に育児ができませんでした。
飼育担当者の介助で立派な母親になれたのです。
2回目は大丈夫か?一抹の不安を抱えていました。
 
するとリアンは長男をしっかりと抱え,モモをおぶり,
僕たちを見る目は母親の目でした。
モモの時の不安げな様子はみじんもありませんでした。
たくましい母性を見た気がしました。
寝室に収容し,様子を見ていると子の体をなめ,しっかりと胸に抱っこし,
仔は乳首に吸い付いています。
モモは興味津々でリアンの肩口から顔を覗かせ,
そっと弟の体を触ったりしています。
群れを作らないオランウータンは子育てなどすべてを母親から学びます。
モモは立派な母親になれるでしょう。
 
ただひとつ,リアンができなかったことがあります。
臍(へそ)の緒を切ることです。
オランウータンは臍(へそ)の緒が長く,
臍(へそ)の緒が仔の首に巻き付いて
窒息死した事故例が報告されています。
夕方になっても臍(へそ)の緒と胎盤はついたままです。
リアンの気をそらせている間に,
ハサミで臍(へそ)の緒を切ってやりました。
一安心です。
モモが生まれた時も臍(へそ)の緒は飼育係が切りました。
やはり今回も…。
臍(へそ)の緒は勝手に切れるもの,
リアンはそう思ってしまったのかも知れません。
モモが母親になった時も?…
先のことですが少し不安が残りました。
リアンと赤ちゃん(ゲンちゃん画伯)

2007年8月26日日曜日

子育て奮闘記(平成19年8月)

6月に孵化したイワトビペンギンの雛3羽と
キングペンギンの雛1羽も順調に生長しています。
イワトビペンギンの3羽には複雑な事情があります。
イワトビペンギンは通常2つの卵を産みます。
でも育てるのは1羽です。
これは長い年月をかけて備わった習性です。
野生下では1羽を育てるのがギリギリなのでしょう。
ですから1卵はもしもの時のための保険なのです。
ワシタカなどの猛禽類やフクロウなどでも親が運ぶエサの量が少ないと,
先に孵った大きな雛が後に孵った小さな雛を食べてしまうことがあります。

複雑な事情とは,イワトビペンギンのペアーが巣を構えて2卵を生みました。
その隣で相手のいない雌1羽が1卵を生みました。
1羽では抱卵の負担が大きく体調を崩すので巣を取り除きあきらめさせました。
何かのアクシデントで卵が割れたら大変なので
親鳥には偽物の卵(擬卵)を抱かせて本物は孵卵機に入れて暖めます。
なんと3卵とも有精卵でした。
抱卵をあきらめさせた雌の相手は隣のペアーの雄と思われました…。
それはともかく,3卵とも孵化したらどうしよう?
1羽を親に2羽を人工に,が常套手段なのですが,
できるだけ親鳥に関わりを持たせながら育てたい,ということになり
順番に雛を親に預けてローテーションしてみようということになりました。
2日は飼育係、1日は親鳥が面倒を見ることになります。
問題は親子の認識です。

鳥類は一般に卵から孵る前に親子の認識をするといわれています。
孵化が近づくと卵の中から雛の鳴き声が聞こえます。
お互いに声で親子の認識をするのです。
ところがペンギンは観察するに巣の中にあるもの,
いるものには寛容なのではないかと思われることがあります。
キングペンギンに到っては
(キングペンギンは足の上で卵を抱き,雛を育てるので巣は作りませんが…)
他種の雛でも奪い取って自分で育てようとすることさえあります。

てな訳で,雛のすり替えを決行することにしました。
結果は予想どおりでした。雛を替えてもちゃんと面倒を見ます。
3羽を別の個体と認識しているのか識別していないのかは分かりませんが…。

さらなるハードルは雛が巣から出てからです。
野性ではある程度大きくなった雛は雛だけで集まり
クレイシと呼ばれる幼稚園を作ります。
この時期は完全な親子の認識があって,
親は自分の子以外にエサを与えることはありません。
はて3羽とも我が子と認識するのか,1羽だけを認識するのか?
どうなっても飼育係のこともエサをくれる人と認識しているので,
親鳥と共同で子育てができます。

さて、もくろみ通りに事が運んでいましたが,雛が巣から出る頃,
暑さと,フンボルトペンギンが雛を攻撃したりで,残念ながら3羽の雛は
室内での人工育雛としました。
現在は雛の羽毛から成鳥の羽根に生え替わる時期を迎えています。
飼育係がついて泳ぎの練習や,群れの仲間に入る練習をしています。
イワトビペンギン3兄弟(ゲンちゃん画伯)

2007年8月10日金曜日

おめでとう!リアン!!(平成19年8月1日)

7月は,開園40周年,アムールヒョウのビック,
ホッキョクグマのハッピーの死,
そしてオランウータンのリアンが7月30日に第2子を出産しました。

生と死は向かい合わせであること,動物園が年を重ねることは,
年輪を重ね樹木が大地に根ざすように,
たくさんの誕生と死が積み重なり
動物園の存在が地域に根ざし,責任も大きくなるんだなと
いろんなことを考えさせられる一ヶ月でした。 

7月30日12時半頃,「リアン出産」の無線が入り,
飼育職員がたくさん駆けつけました。
僕たち飼育係が一斉に集まったのには訳があります。
リアンは長女モモを出産した時,育児放棄をしていたのです。

オランウータンは群れを作りません。
子供は8才くらいで母親から離れ独立します。
大人の雌と雄が共に過ごすのは交尾の時期のほんの数日だけです。
雌は10歳前後から出産できるようになり
4~5年おきに子供を産みます。
子供は自分の弟か妹が生まれてから
数年で独り立ちと言うことになります。
つまりこの時期に自分が親になった時の大切な学習をするのです。
オランウータンの4~5才というと,
好奇心が旺盛でとても多感で学習能力の高い時期です。
ちょうどこの時期に弟,妹が生まれます。
とてもうまくできているな,と感心してしまいます。
それにしても母親の母性は僕なんか,
というか男性から見ると,尊敬に値します。
オランウータンは単独で生活するので
群れのメンバーが育児を手伝ってくれるということがありません。
24時間×365日×4年間ずっと子供と一緒です。
さらに次の子が生まれるとやんちゃ盛りの上の子と,赤ちゃんです。
大変ですね。
一方的に与え続ける愛情があるのです。

リアンは台湾の動物園生まれで,6歳の時に旭山に来ました。
母親が弟,妹を出産しなかったために出産を見ていません。
リアンは10歳の時にモモを出産したのですが,
われわれは「育児ができない可能性があるのでは?」
と考えていていました。
出産しても子を抱かない,あるいは授乳をしないことを想定し,
飼育係が「仔を乳首に吸い付かせる」
ことができる信頼関係をリアンとの間に作りました。
03年3月24日リアンはモモを生みました。
やはり予想は的中しました。
地面に置いたまま抱こうとすらしません。
担当者が寝室に入り,リアンの乳首に子を吸い付かせ,
子をリアンにあずけました。
リアンの「母性」のスイッチが入りました。
戸惑いながらも抱きかかえて
二度と地面に起きっぱなしにはしませんでした。
次の日リアンの顔は「母親の顔」になっていました。
子に触ろうとすると怒りました。
「哺乳類」これはただ単に分類上の言葉ではありません。

リアンとジャック(雄)は昨年の10月,11月,12月と交尾をしました。
1月と2月には尿で妊娠の判定ができる簡易検査で
妊娠陽性の反応がでていました。
オランウータンの妊娠期間は約270日です。
7月下旬から9月に出産するだろうと観察していました。
ここ一ヶ月くらいはイライラすることが多く,
モモに当たり散らすこともありました。
お腹も大きくなり,おへそが出っ張ってきました。
7月30日,「出産!」の無線に
今度は大丈夫かな?という不安がよぎりました。
しっかりと抱っこしています。
モモも興味津々です。
「大丈夫だ!」これからのモモ,
そして子の生長を見守っていきたいと思います。

そうそう大事なことを書き忘れていました。
子供はオスでした。
それと8月1日から通常通り,皆さんにごらんいただく予定です。
オランウータンの親子(ゲンちゃん画伯)

2007年7月26日木曜日

知ってるつもりで知らないこと(平成19年7月)

今年は鳥類の産卵が多くとてもワクワクしています。
ぺんぎん館の産卵も今までになく多く,全部孵ったらどうするの?
とスタッフがうれしい悲鳴をあげています。

そういえば,先日お客さんが「売店で売っているペンギンの卵っていうプリン,
ここのペンギンの卵使っているの?」って聞かれました。
「おやおや」と思いながら,
「年に一回種によって違うけど1卵か2卵しか生みません。
大事な大事な卵なんですよ」って説明はしたのですが…
まさかそんなふうに考えるなんて思ってもいませんでした。

卵と言えばニワトリの卵で年中生む,みたいな連想から
飼育しているペンギンもそうだと思ってしまう人もいるんですね。
まぁ「ペンギンはいつ赤ちゃんを産むのですか?」なんて
真顔で聞いてくる人もたくさんいますから,
ペンギンの卵でプリンを作るくらいで驚いていてはいけないのかも,
と変に納得したりしました。
 
ペンギンといえば,水中を泳ぐペンギンを観ている人が,
羽毛の間に溜まった空気が水の圧力で押し出されて,
背中から気泡となって水中に出ているのを見て,
「ペンギンは背中に鼻の穴があるんだね,イルカと同じだね」
なんて会話していたりします。
冬期キングペンギンの親よりも一回り大きく見える茶色い雛を見て
「あれがここのボスだよ」とか
「ペンギンの皮膚の色って白とか黒とかオレンジ色とかあって不思議だね」とか,
一番ビックリしたのは
「これはマグロかなんかの魚だべ,ペンギンはどこにいるんだ」でした。
あなたはペンギンのことどれくらい知っていますか?
 
知らないと言えば,最近気がついたのですが,動物の生息地,
つまり野性ではどこに住んでいるのか,を皆さんあまりにも知らないのです。

チンパンジー,ワオキツネザル,カピバラ,クジャク,シロサイ,キリン,
キングペンギン,ゴマフアザラシ
(これは知っていて欲しいな)さぁ皆さんどうですか?

多分全部は分からなかったであろうことを前提に(分かった方ごめんなさい)
「動物園は飼育動物とふるさとに住む彼らの架け橋」
でなければいけないのですが,
ふるさとがどこか分からなければ架け橋になるきっかけすらつかめません。

これでは動物園の動物は野性と切り離されたペットと同じ感覚で
見る対象で終わってしまいます。
僕たちが展示方法をもっと工夫しなければいけないのは確かです。
が,種名看板をまず見てください。
あるいは解説看板を読んでみてください。
どうですか,今度は「棲んでいるところ」を確認しに
「混んでいるからイヤだ」なんて言わずに
動物園に来てみませんか?
イワトビペンギンの親子(ゲンちゃん画伯)

2007年6月26日火曜日

はじめまして「ハープ」です(平成19年6月)

5月15日に静岡の日本平動物園からジェフロイクモザルの雄がやってきました。
雄といってもまだ小さくて2才と半年くらいです。
くもざる・かぴばら館ができた2005年8月29日に
雄のシャボがカピバラとの闘争という事故で死亡してから雌3頭での飼育でした。 

早く雄を迎えたかったのですが,いろいろと情報を集めると,
雄の導入はそう簡単ではない可能性がありそうでした。
雌だけの群れに雄を単独で導入すると
雌にいじめられて最悪の場合は殺されてしまう…
このような話を複数聞きました。
勿論個体の性格や相性なども影響するのでしょうが,
「あり得るかも」と考えさせられるサルなのは確かでした。
 
飼育しているクモザルを観察していると
他のサル類とは一般的な性質がずいぶんと違うことに驚かされます。
カピバラと同居した日,みんなで肩を組み2本足でカピバラににじり寄ったり,
興味を示すものが個体によってバラバラだったり,
例えば動物を捕まえるタモ(網)という道具があるのですが
チャコという個体はそれがはるか離れた場所であっても見えたら最後,
一日中警戒して鳴いています。
ジュンという個体は僕に対して明らかに好意を抱いていて(
もしかしたら雄としてみてるのかと思えたりするくらい)
檻の中に入ると僕の胸までよじ登ってきて,抱きついて離れません。
僕が他の個体にかまうと,明らかにやきもちを焼きます。
全く「馴らす」とか「馴致」とかしていないのにです。
一般的にはあり得ないような行動を取ります。
とても個性が豊かなのです。
予測困難なことが多いのです。
 
雄を導入する方法として,
「雄の赤ちゃんを抱いた雌を群れに入れて赤ちゃんが大きくなるのを待つ」だけど,
そう都合よく雄の子持ちの旭山に譲ってもいい雌ザルは見つかりませんでした。
そこでまだ「雄」になっていない親から離れた子供を迎えられないか,
という考えにたどり着きました。
旭山にもまだ3才(大人になるのは8才くらい)のフミもいるし
よい遊び相手になると思われました。
 
で,やってきたハープ君見た目はキューピーちゃんそっくりでとても愛嬌があります。
心配だった雌たちの反応も上々でどの個体も敵対的な反応はありませんでした。
現在同居は順調です。
異種動物カピバラとのお見合いも終わりました。
後は放飼場に出るだけです。
2世誕生はまだまだ先のことになりますが,
次のハードルはハープが大人になる時期なのかなと思っています。
ジュンがいじわるおばさんにならなきゃいいのですが…

クモザルの「ハープ」(ゲンちゃん画伯)

2007年5月26日土曜日

オオワシのヒナ(平成19年5月)

冬期の開園期間が終わり,平成19年度の開園準備です。
例年だと今時期(4月13日)は,雪と格闘している時期なのですが,
今年はもう雪がありません。
楽です。
でもこうも早く雪がなくなってしまっていいのでしょうか?
カモなどの水鳥を展示している「ととりの村」の池の水は,
沢水が頼りです。
例年だと無限にあるかと思われる水量のはずなのが,
今年はもうなくなりそうです。
楽ですなんて呑気なことを言っている場合ではないのかも知れません。
 
頻繁に耳にする「温暖化」ですが,
最近になって「深刻な水不足」を心配するニュースが目立つようになってきました。
日本のように水の少ない国では,雪解け水は生命線です。
田んぼの水,私たちの生活水,そして雪解けと共に一斉に目覚める
木々や動物たちの命の水…として。
予期していない深刻な状況が連鎖して起き始めなければいいのですが。

さて,昨年度の締めくくりと,
今年度の最初の繁殖動物は両方ともオオワシでした。
今年度最初はオオワシかアザラシかで,
僕らの間では毎朝の話題になっていました。
4月5日にオオワシが孵化して,担当者はニコニコしていました。
飼育係みょうりに尽きますね。
多分旭山動物園初だと思います。

オオワシの繁殖については報道もされたのですが,
どうしても関心は日本初の人工繁殖のほうに行ってしまいがちでした。
園としても担当者としても「日本初」を目指したわけではなく
本来の目的は別にあっての人工繁殖でした。

今回繁殖したオオワシのペアーは2年前に自然繁殖に成功しています。
自然繁殖とは親鳥が卵を温め,卵を孵し,
雛を育て,巣立ちさせることを言います。
このペアーは年に一度の繁殖期に一卵しか産卵しません。
つまり一年に一羽しか増えないのです。
野生下での絶滅が現実味を帯びてきた場合,将来の野性復帰に備え,
飼育下での個体数の増殖が重要になります。
ところが繁殖数が少ない種の場合,増殖が思うようにいきません。

鳥類は一般に,産卵後間もなく何かのアクシデントで
卵が割れてしまうなどした場合,数日後に再度産卵をします。
これを補充卵と言います。
この習性をうまく利用できれば親鳥に無理をかけることなく,
1羽の繁殖を数羽の繁殖につなげることができます。
今回は産卵後に巣から卵を取り3卵目までを孵卵機に入れ,
4卵目を親鳥に任せることができました。
このことが実は未来につながる大きな成果でした。

何事も地道な取り組みの先に未来が見えてきます。
オオワシのヒナ(ゲンちゃん画伯)

2007年5月16日水曜日

ドラマ再び(平成19年5月8日)

昨年放送されたドラマの続編となる「奇跡の動物園2007」が放送されます。
僕にとってもここ3~4年は激動の時代で,
平成16年のあざらし館がオープンしてからはとまどうことの連続です。

それまでは僕たちの「思い」をとおして
来園者とともに未来に向かって歩んでいる実感をもっていました。
たくさんの歯車がしっかりとかみ合っていました。
月間の入園者数が日本一になってから
「旭山動物園」が一人歩きを始めました。
変な言い方だけど
自分たちの手の届かないところに行ってしまったような,
自分たちの思いとはかけ離れたところに行ってしまったような,
大きな波にさらわれたような,
漠然とした不安が常にどこかにありました。

たとえほんの小さな歯車が
一つうまくかみ合わなくなっても全体が影響を受けます。
新たな歯車を加えようとしても全体のバランスに影響が出ます。
今はたくさんの歯車を修理したり再構成したりして,
未来に向かっていけるパワーを,旭山らしさを自分たちがしっかりと実感し,
確認しながら,新たな旭山を創る時期なのかもしれません。

ドラマでは俳優さんも前回と同じ方が同じ役をされていて,
さらに新たな俳優さんも加わり
内容に厚みが出たように思いました(まだ見てないけど…)。
僕的に一番びっくりしたのは戸田恵梨香さんが一年前よりも,
さらに 立派な女優さんになっていたことです。

最初に旭山動物園に来られたとき
ペンギンの散歩を一緒にしたりしたのですが,
まだあどけなさがあって,どちらかというと「よく来たね,しっかり頑張ってね!」
だったのですが,今回のロケでは近寄りがたい雰囲気を感じました。

変わったのではなくて,
確実に戸田恵梨香さんとして存在が大きくなったと感じたのです。
そのときふと,旭山動物園も同じなのかな,と感じました。
ちょっと寂しい気もしますが,軸をぶらすこと無く成長した結果なのだから
すばらしいことなのでしょう。

今は未来のために,そう信じて今年も頑張りたいと思います。
マルミミゾウのナナ(ゲンちゃん画伯)

2007年4月26日木曜日

キーボその後(平成19年4月)

チンパンジー館で「キーボはどうなったの?」とよく聞かれます。
キーボは息子のシンバに闘争によりその地位を奪われました。

キーボだけを単独飼育とし,今後を考えていました。
原因となったミコの発情が終わり,
檻越しにキーボの対面を数回試みてみました。
キーボは明らかに臆病になっていて,
檻越しに特にミコを気にしながら手や唇を突き出して
みんなと挨拶をしていました。
これを繰り返せば,群れ復帰もあり得るかと思われたりしましたが,
突如ミコが威嚇をし,つられてシンバが興奮することがあり,
群れ復帰は断念しました。

しかしシンバの群れにするには大きな問題がありました。
シンバが群れを率いるとなると,
シンバの母親フルト,姉イブが同居することになります。
将来発情が来るとシンバが交尾してしまう可能性が高くなります。
発情の期間だけキーボと同居させることは可能なのですが
シンバとの交尾を完全には防ぐことはできないかも知れません。

さらに,母親フルトの6才になる息子ピースケ(シンバの弟)が,
去年生まれた「たける」の面倒を見るのはいいのですが,
遊び方が過激になり「たける」の生傷が絶えない事態になってきました。
さらに2月4日にイブが出産しました。
シンバは若いことと,リーダーとしての未熟さから
群れを統率すると言うよりは勝手放題といった面が見られ,
群れ全体が不安定になる要素もありました。 

そこで,フルト,イブと赤ちゃん,ピースケを
キーボと一緒にすることにしました。
二つの群れに分けることになります。
一度に展示できる個体数が減ることで,
群れ社会や豊かなコミュニケーション能力が
来園者に伝わりにくくなりますが,
これ以外は問題はないと思われました。
キーボもフルトたちもお互いを拒むことはなく同居は順調です。
 
現在は,シンバも落ち着き,
それぞれ5頭ずつで安定した生活をしています。
キーボは昔のような血気盛んで
猛獣のような一面は影を潜め穏やかになりました。
野性下では通用しないのでしょうが,
動物園で一生を送るのだからこれで良かったのだと思っています。
キーボ(ゲンちゃん画伯)

2007年3月27日火曜日

300万人ありがとう!(平成19年3月27日)

今年度の来園者数がなんと300万人を超えました。
思えば4年前100万人なんてあり得ないって言っていたのが,妙に懐かしかったりします。
 
あざらし館がオープンした平成16年度,来園者数が145万を超えたころから
ぼくたちの歩みのスピードや思いと,マスコミや来園者の評価,期待に
どこかズレが生まれ始めたような違和感,不安がありました。
それは今でも続いています。
来園者の急増よりも,ぼくたちの方が早く先回りができればいいのですが,
追いつくことすらできていないのが現状かもしれません。

動物園は,博物館や美術館のように
ある特定の目的を持った人だけが来る施設ではありません。
デートであったり孫を連れての行楽だったり観光だったり…
不特定多数の人が集まる場所だからこそ可能性は無限なはずです。
未来の地球のことや,自分たちのことを考えるとき,
何を大切に思い,守り,反省をしなければいけないのか。

環境問題や動物の保護にそれほど関心の無い人たちも含めて,
みんなが「これはこうしなければいけないね」といった
共通の価値観を作らなければいけないと思います。
動物園にはその可能性があると信じています。
関心の高い人たちだけがこうあるべきだと言っていても社会は動きません。
今まで動物のドキュメンタリー番組なんて見なかった人が,
動物園に足を運んだことがきっかけで,ふとチャンネルを合わせる,
ふと無駄についている電気を消してみる,
そんなことにつながっていけばすばらしいことだと思います。

旭山動物園がすごいのではありません。
当たり前ですが動物たちがすばらしいのです。
ぼくたちは来園者数に惑わさせることなく,
ぼくたちヒトの価値観の中で見る,見せるのではなく,
動物たちのありのままの姿をしっかりと伝える努力を淡々と続けていきたいと思います。

たくさんの方に来園していただき本当にありがとうございました。

2007年3月10日土曜日

暖冬との戦い!(平成19年3月)

冬期限定のペンギンの第2放飼場をつくっています。
トボガン広場と命名しました。
ぺんぎん館の向かいに雪の積もった放飼場をつくり,
ジェンツーペンギンが自由に行き来したらいいなと思っています。

第2放飼場まではお客さんの頭上に橋を架けその上をペンギンが渡る形になります。
ちょっときつい傾斜になるのですが,そのことでキングペンギンは
好んでは行きたがらないだろうと読んでいます。
みんなが第2放飼場に行ってしまっては,困りますからね。
 
実はキングペンギンの散歩の時,ジェンツーペンギンも出たがります。
でもジェンツーペンギンはキングペンギンに比べ動きが素早く,好奇心が強く,
集団性が弱いため,さすがに来園者と全く隔てるものがない状況で
散歩に連れて行くわけにはいきません。
かといって隔てるのは散歩の主旨に反します。
 
活発で運動量が多く旭山で飼育しているペンギンの中では最も冬を得意とする
ジェンツーペンギンのために何かいい方法はないかと考えていました。
もっとも今の段階では作成途中なのでどのような結果になるのか分かりませんが…

トボガンというのは,
雪中で腹這いになりフリッパーと足を使って移動する様子のことです。
英語で「小型のソリ」を意味します。
ふみ固まった雪上だと立ったまま歩くのですが,雪が深くなると,
トボガンの方が移動しやすくなります。
旭山ではキングペンギンとジェンツーペンギンがトボガンを得意としていて,
新雪が降り積もった状況では自ら好んで雪浴びとトボガンをします。
ただしトボガンが始まると,あのヨチヨチ歩きからは想像できないくらい,
魚雷のようなスピードが出て,ペンギンがハイな状態(おだった)になると,
どこに突進するか分からなくなります。
散歩のルートにもわざとに除雪をしないエリアがあるのですが,
たまにお客さんの列に突入しそうになりあわてる場面があります。
 
トボガン広場になればいいのですが,今年は暖冬で,
なかなかフワフワの新雪が積もった状態にはなりません。
彼らが身につけた,寒冷地ならではの素晴らしい能力を
発揮できる場面を作り出せるかちょっと心配です。 
 
あざらし館のスタッフが一生懸命に取り組んでいる
「あざらし館に流氷」作戦も難航しています。
なんせ気温が高すぎです。
今日,氷屋さんから氷を取り寄せプールに投入し勝負に出ました。
明日から最低気温の低い日(といってもせいぜい-10度)が続きそうだからです。
こうなったら一回でもいいから
アザラシが氷に開いた穴から顔を出すシーンを見たいものです。
 この号が出る頃,雪はあるのでしょうか?
トボガン広場,流氷作戦の結果はどうなっているのでしょうか

さて,この文書は2月の下旬に書いたものでした。結果はいかに!

トボガン広場ですが,
初日からジェンツーペンギン数羽が早速広場に探検に来ました。
ここまでは良かったのですが,
さらさらの雪が積もることはなく,むしろ雪が溶ける日が多く,
園内から雪を運んで入れるありさまでした。
したがって,ひなたぼっこや昼寝の広場になっています。
さらに発情期を迎えたフンボルトペンギンが
新天地を求めて?やってくるようになりました。
寒ければ来ないのでしょうが…。

あざらし館に流氷作戦は一日だけ,
早朝に氷の穴から顔を出すアザラシが見られました。
感動でした!ただ開園の時間には…でした。

暖冬には勝てませんでした。来年こそ当たり前に寒くなるように!

トボガンするジェンツーペンギン(ゲンちゃん画伯)

2007年2月26日月曜日

ありのままが一番!(平成19年2月)

相変わらず冷え込みもなく雪も少なく,このまま冬が終わってはまずいだろう,
と言う漠然とした不安を抱きつつも,僕たちにとって,
南の方から来られる観光客にとっても都合のいい冬が続いています。
ちんぱんじー館もはじめての冬,施設的にも大きなトラブルはなく順調です。
 
ちんぱんじー館で来園者の反応を見ていて,意外だったことがあります。
「チンパンジーってこんなに大きいの?!」
結構頻繁に耳にします。
「テレビのは幼稚園児くらいの大きさだったよ」
「信じられな~い,でかすぎ,怖~い」…
なるほどテレビかと納得しました。
洋服を着てイヌと一緒にお買い物をするチンパンジーや、
ニュースキャスターの物まねをしている個体もいるようですね。

いずれの個体も5~6才くらいの,とても多感でやんちゃな時期です。
旭山にもちょうどあれくらいの大きさの個体が2頭います。
何でも大人(チンパンジーの)のまねをしてみたり,
大人をからかっては怒られたり,
大人がしないようなことを平気でしてみたり…
今一番の関心事は群れの中で昨年生まれた赤ちゃんを
母親の承諾を得て抱っこをしたりして遊びながら子守をすることみたいです。
赤ちゃんの扱いがちょっと過激で見ていて心配な面はあるのですがね。
でも,もうお分かりですよね。
この年頃は,大人の仲間入りをするためのとても大事な時期なのです。
立派なチンパンジーとして生きていくための
一番大切な学習の時期と言ってもいいくらいです。
 
チンパンジーの親が育児を放棄したために、
飼育係が代わりに育てる人工保育はありますが、
将来チンパンジーとして過ごせるような取り組みをします。
テレビ番組に出演している個体のように,ヒトのように振る舞うことを教え込まれ,
服を着せられて過ごすのは希なことです。

特定の人と1対1の絆の上で調教され,
すべてが擬人化された演出の組み合わせで
ストーリーが作られています。
彼らはもう数年もすると自己主張が強くなり,
肉体的にヒトよりも強くなります。
制御ができなくなります。
演出が成り立たなくなります。
見た目も「かわいらしく」なくなります。
そうなると「引退」です。
引退した後の彼らはどうなるのでしょう?
ヒトとも一緒に過ごせない,
チンパンジーとして生きる学習もしていないのです。

都合のいいかわいい時期だけを見ていることが,
あるいは見せられていることが
あまりにも多いのではないでしょうか。
「チンパンジーってこんなに大きいの!」
等身大の,ありのままの彼らを見てもらうことが動物園の使命です。

チンパンジーのナックル歩行(ゲンちゃん画伯)

2007年1月26日金曜日

5年ぶりのライオンの赤ちゃん(平成19年1月)

早いものでもう「明けましておめでとう」ですね。
今年もよろしくお願いします。
昨年の秋は世界各地で記録的に暖かい秋だったようです。
旭川の冬は意外と早く訪れましたね。
ペンギンの散歩も順調です。
でもしばれるような寒い日は昔と比べると確実に減っていますね。
日本最北の動物園として,「寒さ」を必要とし,寒いからこそ輝く生き物たちがいることを,
もっともっとたくさんの人に伝えていかなければいけないのだとの思いを新たにします。

さて5年ぶりにライオンに赤ちゃんが誕生しました。
5年前は4頭,しかも雄ばっかり…もらい手を探してからの計画繁殖だったのですが,
諸事情からもらい手がなくなり,
最後の子が婿にでたのは生まれてから4年もたってからになっていました。
雄の子は1才を過ぎると父親が同居することを許さなくなります。
「ここまでは面倒を見た,これからは自分で生きていきなさい」
子離れ,親離れは厳格に守られます。
今回は雌の子はいるかな?何頭かな?雌の子は跡取りとして残さないといけないかな?
色々なことを考えていました。

ネコ科で唯一群れをつくるライオン,絶対的に強い雄に守られた環境での子育ては,
他のネコ科の仲間とは全くちがいます。
ひっそりとではなく,子供たちがノビノビと草原でじゃれ合い走り回ります。
百獣の王のイメージが生まれるのもうなずけます。
5年前の子育てもまさにそんな感じでした。
5年ぶりに見ることができるんだ。
期待は高まりました。

で,10月20日。結果は雄の子1頭でした。
エッ!て感じでした。
でも落ち着いて考えると,担当者の入念な出産準備あってこそのたまもの,
暗視カメラで見る産室でのレイラ(雌親)の落ち着いた子育ての様子,
贅沢は言ってはいけないと思いました。

今回は冬に向かっての出産になってしまいました。
初めて放飼場に出すタイミング,雄親との同居,雪と寒さを考慮しながらとなりました。
兄弟がいればじゃれ合ったりして少々の寒さや雪は平気なのですが,
今回は一人っ子。
母親の尻尾にじゃれついても一緒に走り回ってはくれません。
競争がないのでどことなくおっとりとしています。
これからが冬本番,何かと心配事が増えそうです。
それにしても兄弟でじゃれ合い走り回る姿が見れないなんて…やっぱりちょっと残念です。
 
今は,母子での初放飼場は無事終わり,いよいよ雄親との段階です。
この号が届く頃には百獣の王の家族になっているでしょう。
ただ寒いので毎日放飼場に出ているとは限りません。
見れたらラッキーくらいに思っていて下さいネ。
春になればゆっくりと見て頂けますから。

ライオンの赤ちゃんの顔(ゲンちゃん画伯)

2007年1月8日月曜日

新年の独り言(平成19年1月8日)

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

2日から開園したのですが,来園される方がとても多くて,
ご挨拶を書く時間がとれず,遅い「あけおめ」になってしまいました。
昨年から急速に,社会のあらゆる分野と言っても過言ではないくらい平行して
何かがおかしくなりつつあること,歯車が狂いはじめていること,
社会生活する上での共通の価値観がなくなりつつあること,
すべての帳尻が合わなくなりつつあること等々,
少なくともいい方向には進んでいないことを実感することが多くなったのではないでしょうか。
私たちはどこに向かっていくのだろう?不安の年明けでした。
 
昨年の末に仕事で沖縄に行きました。
移動の途中ひめゆり平和祈念資料館にも行ったのですが,
祈念館は衝撃そのもので,悲惨な消耗戦,玉砕戦のなか
「それでも生きたい…」の無念が伝わってきました。
二度と繰り返してはならないことだと思いました。

しかしどうでしょう。
平和が長く続く日本で現在起きていること,年間の自殺者が3万名を超え,
いじめや殺人も日常のことのようになってきました。
戦争のない平和な時代でも荒んだ悲惨な出来事が日々起きています。
平和が「生きていること」の実感の希薄さを蔓延させるのだとしたら,
時代は戦争と平和を繰り返すしかないのでしょうか?

新年を迎えて,星野道夫さんの写真展を強引に時間を作って見てきました。
星野さんは,アラスカで自然を感じ自然の輪の中で生きる人々の生き方に共感し,
強いあこがれを抱き,その一方で現代人として生きている自分と葛藤していたように思います。
そして自分が生きる現代社会の将来に,人類の将来に,地球の将来に
強い不安を感じていたのではないでしょうか。

自然はたくさんの命があふれていながら,何も足さずに引かずに循環しています。
命が永遠にリサイクルされて,その時々でバランスを取っています。
僕たちの体を構成する原子や分子だって太古の昔から数え切れない程の命の中で
代々受け継がれて,たまたま今自分の体を構成しているだけです。
 
僕は星野さんが愛したアラスカとは対極の動物園という人間のエゴから作り出された場所で,
動物を見ています。
でも1時間くらい,ある動物を見続けていると僕らとは違う時間の流れがあることを感じます。
それぞれ種でみな違うリズムがあります。
それはきっとそれぞれの動物が生息している環境,自然のリズムです。
そして,その時間の流れの中に身を置くことがとても居心地がよく,
かけがえのないものに思えます。

僕たちヒトは自然の循環の中で生きる生き方を捨て,これからも戻ることはないでしょう。
むしろ加速していくのでしょう。
人類はもはや他のすべての生き物とは別の生き物です。
でも地球上で生きているのです。
だからこそ自然の尊さやかけがえのなさを社会の共通の価値観として
しっかりと持たなければならないのではないでしょうか。
地球と人類の共存のカギはここにあるのだと思えます。

ホッキョクグマとアザラシ(ゲンちゃん画伯)