2006年1月1日日曜日

野性の本質 (平成18年1月)

また新たな一年が始まりました。
昨年は入園者の増加とは裏腹に,何か晴れ晴れとしない一年でした。
誰のための動物園?何のための動物園?
僕たちの思いとは別の方向に向かっていきそうでとても心配です。
まぁ僕たちが今までのスタンスを守ること,
軸をぶらさないようにすることが一番大切なことなので,
焦らずにやっていこうと決意を新たにしています。
あくまでも旭川,北海道に根を張った動物園であり続けたいと思います。

さて,昨年は複数の動物園で飼育係の人身事故が起きました。
ツキノワグマ,ヒグマ,ホッキョクグマ,ゾウ,どれも痛ましく悲しい事故でした。
当園でも3年前にトラによる事故がありました。
よく聞かれるのが
「飼育している動物が人を襲うなんてどんな飼育をしていたんだろう」
と言った言葉です。

動物園で飼育している動物は野生種ですから
他種の生き物を信用し従順に従うことはありません。
共存していても「仲良く」ではありません。
それは動物園で生まれ育っていてもです。

我々飼育係との基本的な関係はあくまでも檻越しの関係で,
その中で「ルール」ができています。
ですから我々は動物の気持ちをどこまで理解してあげられるかが重要で,
決して完全に制御し,言うことをきかせようとは考えないのです。
飼育管理上の必要があってゾウに「待て」をさせるのと,
ペットのイヌに「待て」をさせるのは全く別次元のことなのです。

例えば檻越しにホッキョクグマと対面します。
近寄りすぎるとクマは檻の隙間からこちらに手を出して威嚇してきます。
でも,僕はクマの側に手を入れることはできません。
どちらが精神的,肉体的に優位なのかは歴然としていますね。
それをふまえた上での関係なのです。
事故は扉を閉め忘れるといった「ルール」が破られた時に起きます。
たとえ20年飼育していた動物でも一回の「ルールを破る」ミスを見逃してはくれません。
何らかの理由で我々がルールを破ったのだから
事故があってもその動物を処分するという発想にはなりません。

だからといって飼育係と動物は常に警戒しあっているのかといえばそうではありません。
お互いを認め合う中で飼育しています。
僕たちは動物たちを敬愛しています。
知れば知るほど凄い命たちです。

そうですね,今年のテーマは「野生を感じて!」でいきましょうか。