2005年7月29日金曜日

名前 (平成17年7月)

今年も6月だというのに暑い日が続いています。
くもざる・かぴばら館の工事も急ピッチで進んでいます。
いつものことですがこの時期になると外周柵との距離がちょっと近すぎたのかなと
イヤな妄想が頭の中に住み着きます。
他の園の情報でクモザルの秘められた運動能力を聞くとますますです。
やはり尾を第5の足として器用に使うのでとんでもない動きができるようです。
無事にオープンできるように皆さんも一緒に祈っていて下さい。
さらにチンパンジー館の設計も着々と進んでいます。

さて,お客さんからよく「ペンギンはよく馴れてるんですね,
名前はあるんですか」と聞かれます。
ペンギンはペットのように馴れているわけではありません。
人間でも捕まえられるくらいヨチヨチしているのはなぜか?
そう,陸上に天敵がいない環境で進化した結果なのです。
ですから陸上での警戒心がとても弱いのです。
さらに彼らに攻撃されてもこちらが重大な怪我をすることがないから
一緒の空間に入ることができるのです。
冬期間の散歩ができるのもこのためです。
レッサーパンダも警戒心のなさでは同じようなところがありますね。
決して馴れているのではないのです。

次に名前ですが「個体識別」のために各個体に番号があります。
また,一部には愛称を付けていたりします。
霊長類の研究は日本が世界のトップクラスの水準にあります。
欧米の研究者がチンパンジーとして群れとして研究していた頃,
日本人の研究者は徹底的に個体識別をして,
つまり愛称を付けて研究を始めました。

個体が見えてくることで飛躍的に社会性や個体同士のコミュニケーションの方法,
個性などが分かるようになってきました。
旭山動物園でも展示動物と来園者の「距離」を近づけられたらと
できるだけ愛称を付けるようにしています。
「ホッキョクグマ」として漠然と見るよりも
「ホッキョクグマのイワン」として見ると不思議なくらいいろんなことが見えてきます。

ペンギンのように一緒の空間で飼育ができて,
馴れているような誤解を生みそうな場合は名前を付けないように,
呼ばないようにしています。
どうしてもペットと同じ擬人化した愛称の様な誤解を生むからです。

動物園の飼育動物は大半が野生種の動物たちです。
命に対する価値観や物の見え方,生き方など僕たちヒトとは全く異質です。
それぞれがヒトと対等な生き物で,
イヌやネコなどのペットの延長線上にいる生き物ではないのです。

僕たちが動物に愛称や名前を付ける理由や基準が分かってもらえたらと思いました。