2005年3月29日火曜日

ハッピーの右往左往 (平成17年3月)

オランウータンのモモがハンモックで遊ぶようになりました。
リアンとモモが下の方,ジャックが上の高いところでくつろいでいてなかなか絵になります。
それにしてもモモは見ていて飽きません。
ジャックがこんなに表情が豊かだったことに気がつきました。
また,リアンはモモから片時も目が離せないのですが,
ジャックは手持ちぶさたで,そのことも破壊行動に走る原因なのかなと感じています。

さて,手持ちぶさたとはちょっと意味が違うのですが
ホッキョクグマのハッピーはアザラシ目線のカプセルのある方で
コユキと一緒にいる個体ですが,
金網越しの場所で同じ所を行ったり来たりしています。
踏み出す足まで同じなので雪が足跡のとおりに溶けていています。
いわゆる「常同行動」です。
何らかの精神的なことが原因で発現する行動です。
動物園を批判する方はこの常同行動の発現を批判の根拠にすることが多いのです。

クマの仲間は野生でも同じ行動パターンに固執することが多いようです。
旭川近郊でヒグマが毎日出没したことがあってそのクマを観察すると
あるエリアから別のエリアに移動する際に通る獣道があって
その途中にある倒木を乗り越える際に
毎日必ず右足なら右足から乗り越えたそうです。

クマの仲間は飼育していると個体によらず共通の行動パターンがあります。
放飼場と寝室を仕切るシュートを開け寝室に収容する時,
上半身だけを中にいれ,後ろ足を放飼場に残して入るか入らないか迷います。
後ろ足を残すことでシュートを閉めさせないようにするためです。
そして入って餌を食べたいけど,どうしようかと迷ってイライラが高まると前足で床を叩きます。
この迷う決断力のなさも共通です。
何かに興味を示して行こうか行かないか迷います。
前足を一歩踏み出して戻ってを繰り返します。
これが高じると右往左往になってきます。
面としての空間があっても線として利用するのも共通しています。
旭山動物園ではこのような性質を理解した上で
常同行動の発現を押さえるように努力をしていて,
ハッピーを除くと成果はあがっていると考えています。

ハッピーは明らかに他の個体より神経質です。
また,生まれ育った昔のホッキョクグマ舎は狭い場所でした。
最初に引っ越してイワンのいる大プールのある放飼場で
プールには入れるようになるまで半年近くかかりました。
そして水際で右往左往でした。
空間の広さ,プールの深さ全てが体に染みついた生活空間より広すぎたのです。

今の放飼場に移ってまだ4ヶ月あまり。
ハッピーにとって今の空間に慣れるまでまだまだ時間が掛かりそうです。 
ホッキョクグマ

画:ゲンちゃん